1、バンド・ブームの到来
(1)、アマチュアバンドが増えた理由
①、ティーンエイジャーは、誰もが尾崎豊のように吐き出したいメッセージをもっていた。誰もが布袋寅泰のようにタテノリ8ビートに載せてカッコよくギターを弾いてみたかった。
②、アナログ盤からCDへの移行もほぼ完了、CD単価も下がったし、貸レコード屋も乱立気味となったから、今までよりもずっと安価に音楽を聴けるようになった。
③、デジタル化・大量生産化を通じて楽器価格は相対的に安くなり、貸スタジオも急増した。
(2)、ライブハウスが足りない
・87年頃までの大都市圏におけるライブハウスの数は急増した。ところが、アマチュア・バンドの数がそれを上回るペースで増えていったのである。そこで、ライブハウスを閉め出されたアマチュアバンドは、もともと竹の子族などのストリートパフォーマンスの場だった東京原宿の歩行者天国・ホコ天に進出、80年代末にはストリート・ライブのメッカに変えてしまった。毎日曜日、物見遊山の客に混じって、アマチュアバンド予備軍が押し寄せ、翌週にはその予備軍がギター片手にホコ天に立つといったように、ホコ天バンドの数は急速に増え、いよいよバンドブームは本格化する。
(3)、イカすバンド天国
①、イカすバンド天国がはじまる
・89年2月よりTBS系「イカすバンド天国」(通称イカ天)の放映がはじまる。これはかつての「勝ち抜きエレキ合戦」のようにアマチュアロックバンドのコンテスト番組だったが、この番組が刺激になってバンドの数はますます増えていく。いよいよ空前のバンドブームが訪れることとなるのであった。
②、主なホコ天・イカ天出身バンド
・THE BOOM、KUSU KUSU、JUN SKY WALKER(S)、AURA、たま、JITTERIN'JINN、FLYING KIDS、BLANKEY JET CITYなどである。また、ホコ天・イカ天ブーム以前の80年代半ばからライブハウスで人気を博し、バンドブームに乗ってブレイクしたバンドとしてTHE BLUE HEARTS、THE STREET SLIDERS、UNICORN、筋肉少女隊、レピッシュ、BUCK-TICK 、X JAPAN、ZIGGYなどである。
(4)、バンドブームの終焉
・ポップのライブ化・ビジュアル化にあわせて、イカ天・ホコ天期のミュージシャンの多くが、衣装・メイク・パフォーマンスにおける過剰とも思えるほどの自己演出に走ったが、一部を除いて音楽的にはむしろ保守的で、既存の音の枠組みから良くも悪くも抜け出せなかった。よって、90年頃になるとブームは急速にしぼんでしまう。実質的には、ビジュアル面での派手さとメッセージ指向の挑発的な言葉だけがブームを支えていたのだから、ひとたび飽きられればその衰退もあっけないほどであった。バブル経済の崩壊・平成不況のはじまりがバンドバブルの消滅を加速させていった。
2、アンチ・ドメスティックの動き
(1)、意義
・バンドブームに対して一線を画し、前の時代のプライベート化・セグメント化の流れを受けて、自分たちの表現を磨くことに専念し、結果的にバンドバブルを乗り越えていった一群のミュージシャンたちがいる。
(2)、代表格
・BO GUMBOS、エレファントカシマシ、ニューエスト・モデル、フリッパーズ・ギターなどで、超ドメスティックな環境のなかで自足してしまっているロック/ポップの主潮流に反発するような活動でその支持層を拡大していった。
(3)、ワールドミュージック
・アンチ・ドメスティックの動きはワールド・ミュージックというタームの下に登場したミュージシャンによっても展開された。たとえば、上々颱風や沖縄のりんけんバンドだが、彼らは、ルーツにこだわることを通じて、逆に開かれたロック/ポップが生みだされることを身をもって示した。
(4)、大阪出身のバンド
・ドメスティックなバンドバブル状況は、ホコ天・イカ天に例をとるまでもなく、東京を中心に形成されたが、実際にこの時期以降、国際的に評価されるようになったのは、大阪から生まれた少年ナイフやボアダムズなどである。後にやはり大阪出身者主体のオルケスタ・デ・ラ・ルスが、ビルボードのサルサ・チャートでナンバー1になるという快挙も成し遂げる。
(5)、ヒップホップ
・日本語ラップやヒップホップを指向する近田春夫やいとうせいこうはそもそも土着的な移入文化をあえてもちこむことによって、閉じようとするロック/ポップ状況をダイナミックに動かそうとした。この動きはスチャダラパーや電気グルーヴなどの援軍を得て現在も継続中だ。
(6)、ポップ
・パール兄弟、ピチカート・ファイヴなどが80年代半ばからつづけていた、ロックを越えたポップの体系を見すえながらの意識的な活動は、後にその一部は渋谷系と称されるようになる。
(7)、ネオ芸能的なエンターテインメント型ポップ
・爆風スランプや米米CLUBなどといったネオ芸能的なエンターテインメント型ポップも開花する。
<参考文献>
『J-ROCKベスト123』(篠原章、講談社、1996)