音楽のおべんきょうφ(.. )メモメモ

NHK-FMWorld Rock Nowでの渋谷陽一氏の解説で面白かったものをメモしてゆきます。

スティング(Sting)、「The Soul Cages」に続き再び人生を振り返る

20131108

 スティングの10年ぶりの「The Last Ship」を紹介したいと思います。これはもういっぺん彼自身が自分の育った町、父親が働いていた造船の町、自分の故郷をテーマにミュージカルという形式で自分の人生と向き合った、そういう作品です。ご存じの方も多いと思いますけれども、1991年に発表されました「The Soul Cages」というアルバムがやはり同じような佇まいで、自分の故郷と父親が亡くなったという人生の節目に向き合う作品だったんですけれども、それに続いてもういっぺん同じテーマで、今度はミュージカルという形で、自分自身のふるさとと向き合った作品になっております。非常に長い、スティング自身の手によるライナーノーツがあって、これが本当にすばらしいので長いですけれども読ませてください。

 「The Last Ship」はすべて新曲で固めたアルバムとしてはほぼ10年ぶりの作品ということになる。ソングライターとしての寿命を考えたら10年はかなり長い時間だ。最もこの時間を私は無為にすごしてきたわけではない。ずっと年上の、あるいははるか昔に亡くなってしまった作曲家達の作品を、どうしたら自分らしく表現できるのか模索を続け、休むことなくツアーにも取り組んできた。だが新しい曲となると聞かせるものがほとんどなかったのだ。私の人生を支えてきた曲を書きたいという欲求が消え失せてしまったのだろうか。そんな風に思うこともあった。もちろん以前にもこういうことはあった。いつの日か改めて創造意欲を手にするための準備期間なのだと、自分を納得させたりしたものだ。あるいは自らを取り戻し、さまざまなものを再考し、新たな一歩を踏み出すための準備期間。しかし繰り返すが10年は長い。父が他界した後やはり曲を書きたいという思いが枯渇したことを覚えている。感情と創造意欲の麻痺というべきものかもしれないが、結局その状況が私を「The Soul Cages」の制作へと導くこととなった。1990年のことである。いつものことだがレコード作りには深い自己探求が要求される。その過程でできることならば再訪したくないと思っていた土地に連れていかれることにもなる。問題の多かった子ども時代。生まれ育った町の造船所を中心に広がる超現実的な景色。いわゆる生存者の罪悪感、怨念、封じ込められた怒り。苦しみに満ちたものであったとしても、なぜか心をつかんで離さない過去に対する逆説的な郷愁。造船所の衰退とそれに伴う解雇が私が少年時代を過ごした町にも暗い影を落としていた。それが私の両親の死と重なっていく。挽歌を意図した「The Soul Cages」はこれまでのレコードの中でもっとも愛されず、もっとも理解されることのない作品となった。しかし、冷たい反応の一方であのアルバムは少数ながら誠実なリスナーの一隅を生んだのだった。半ば冗談で私は彼らを「最近近親者を亡くした人たち」「同じような思いに取りつかれた人たち」と呼んでいる。楽しい集いではないが思慮深い人たちの集まりとしてこういうものも認められるべきだろう。そして60回目の誕生日を迎えた頃だった。私の思いは親しみの感情とともに心の中で存在し続けていたあの土地へと戻っていった。生まれ育った町。今も私の記憶から消えようとしない幽霊達。未熟な作家であったあのころの私は勝手な思い込みでそれらを表現していた。もっと広い視野で描くことはできないであろうか。私ではない誰かの声で語ってみよう。私とは異なる視点で表現してみよう。その方向性が定まると苦しみから解き放たれた。創造のアイディアが絶え間なく私の中から吐き出されていった。登場人物達。物語の筋。たくさんのセリフが紙を埋めていった。驚くほど多くの曲が、驚くほどのはやさで生み出されていった。しかもその間私は少し脇によっていた。ちょうど登場人物達が私を通じて語るのに任せていたのだ。この作品では古くからの友人たちの協力をもらった。その多くはTynesideの出身。私と同じく川を眺めながらそだった人たちであった。正直に言うならばこの作品は夢の船でしかない。こんなことがあったかもしれないという寓話。仕事の大切さ。地域社会の重要性。その底流としてある父親の存在。追放。疎外。贖罪。死すべき定め。情熱。時に絶望の中から生まれるユーモアと勇気。そういった様々なことに関する寓話である。叙事詩としてうけとめてもらうこともあるかもしれない。結局のところ私たちは歌詞にもある通り、他にはなにも手に入れて+ないだろう。

 というのがあまりにも完璧なライナーノーツであります。続いてこのアルバムからアルバムタイトルナンバーを聞いていただきます。The Last Ship。

 

 この曲でミュージカルがはじまるんですけれども、続いてはAnd Yet、それでもまだ、というこの町に帰ってきたという曲を聞いていただきたいと思います。And Yet。

 

 続いてはI Love Her But She Loves Someone Else、私は彼女を愛しているけれども彼女は別の人を愛しているんだよという曲を聞いていただきます。I Love Her But She Loves Someone Else。

 

 スティングは私と同じ1951年生まれの62歳なんですけれども、あれほどの才能を持ったアーティストであっても10年間曲を作ることができない。それはまあ適当なポップソングを作れと言われたらいくらでも作れてしまうのかもしれないですけれども、自分にとってリアルな曲というのを作らないと表現者としてはやっていけないわけで、それがなかなか出てこないというのは辛かったんだなぁと。でもそれをなんとか乗り越えるというその作業をこのアルバムでできてよかったなぁと思います。正直、今回オンエアーした3曲以外はかなり地味で、ポップソングとしてのアッパーな佇まいをもった曲はあれだけなんですけれども、でもミュージカルという感じでストーリーをともなって全体を見ることができれば何かが伝わってくる作品なんじゃないのかと思います。ポリスの再結成ツアーでものすごい全世界的に大成功をおさめていたときに、彼自身は半ばノイローゼ状態になって非常に辛かったというエピソードもやっぱり、ポップアーティストとしての成功というものは何なのかということを改めて考えさせられました。

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