ラジオFMのメモ

NHK-FMWorld Rock Nowでの渋谷陽一氏の解説で面白かったものをメモしてゆきます。

アイアン・メイデン(IRON MAIDEN)の3rd「The Number Of The Beast」

20070328 私の名盤コレクション 伊藤政則

1、ロンドンへ

 1970年代末期くらいに、ニューウェイブやパンクが出てきて、ハードロックやプログレみたいなものがどんどんシーンの隅の方に追いやられてしまって、音楽評論家としての仕事の数も少なくなってきたし、実際にレコードを聴いて「これはすごい」と思うような新人バンドもどんどん減ってきていて、こういう仕事はもうやめた方がいいんじゃないかなぁとか思っていました。ジューダス・プリースト (Judas Priest) とかすごいいいバンドはいたんだけれども、時代の中でずいぶん押されていて、自分の好きなものではあったんだけれども、新譜の出る頻度が少なくなっていっていて。そうこうしているうちに、ロンドンに何度か行っていたので、79年の夏にもう一度ロンドンに行ってみようかなと思って、ひと夏ロンドンに行っていたんですよ。ところが、ロンドンに行っていろいろな人に会ったり、いろいろなミュージシャンに会っても明るい話がなくて。このころのロンドンはパンクの終わりで、パンクはまだあったんだけれども、なんとなくイギリスが停滞ぎみでしたね。経済も停滞気味で、若者たちは行き届いた社会保障の中で、ぬくぬくとバイトなどをやりながら、あまりまともな仕事もせずといったような、そんな空気がイギリス中にあって、だからパンクのような先鋭的な音楽が出てきたんだろうけれども。

2、ヘヴィメタルナイト(heavy metal Night)へ

 そんな時にある音楽新聞を見ていたら、ちっちゃい記事で「ヘヴィメタルナイト」と書いてある広告があったんですよ。ヘヴィメタルナイトって何だろうなぁと思って。今はなくなってしまいましたが、北の方にミュージックマシーンというライブハウスがありまして、そこの広告なんですよ。それで、サクソン(SAXON)、アイアン・メイデン、 ウィッチファインド(WITCHFYNDE)とあって、サクソンはヘッドライナーらしくて一番字が大きくて、アイアン・メイデンが次に大きくて、ウィッチファインドに至っては虫眼鏡がないと見えないくらいなそんな感じで、どうしようかなと思ったんだけれども、後悔しないために行った方がいいよと言われて、それじゃあ行こうかなということでミュージック・マシーンというクラブに行ったんですね。そこはかつての劇場を改造したライブハウスで、下がフロアーで二階と三階がバルコニーというそんな感じの所なんですよ。で、扉を一つ一つ開けていくと、確かにバンドが演奏している音が聞こえる。へヴィメタルというよりはハードロックだなぁと思って、ぱっと扉を開けたらウィッチファインドという一番最初のバンドが演奏していたんですけれども、何に驚いたかといって、客の少なさですね。50人くらいしかいないんですよ。でっかい会場なんだけれども。そしてその多くの人が、Gジャンを着ていまして、革ジャンを着ている人もいたんだけれども、真ん中で今ではエアギターとかヘッドバンギングという言葉があるけれども当時はなかったですから、一人の人が足を怪我しているらしくてギブスをして松葉づえを持っているんだけれども、その松葉づえをギター代わりにして、ヘッドバンギングしているのよ。これは何だと。これはすごいかもしれないと思ってしばらく見ていて、ウィッチファインドはブラック・サバス(Black Sabbath)みたいなバンドだったんだけれども、お客さんがすごくて、首振ってるし、これはすごいものを見てしまったなと。

3、アイアン・メイデンとの出会い

 そうこうしているうちにバンドが終わって、次のバンドへと機材の転換の間にDJの方がレコードをかけながら「この曲は何だよ」と言いながらかけているんですよ。こういうDJのやり方もあるんだなぁと思って。パンクでもザ・クラッシュ(The Clash)なんかはそういう事をやっていて、合間にソウルだとかレゲエをかけていたらしくて、それを音楽評論家の大貫憲章さんがご覧になって、それをまねしたのが「LONDON NITE」だったらしいですね。で、僕もその人に会いに行ったら、ニールKさんという方がDJをやっていたんですけれども、君はへヴィメタルが好きなの、なら次に出てくるアイアン・メイデンという無名のバンドだけれども、これはきっと好きだよっていわれて、君のタイプだと思うから見ててごらんって言われて、それで見ていたんですね。そしたら、まずスティーヴ・ハリス(Steve Harris)とデイヴ・マーレイ(Dave Murray)が出てきて、ドラムとサイドギターは違う方だったんですけれども、だけどムードが違うの。何だこれはって。見たことも聞いたこともないような雰囲気ね。歓声がワーって上がって、後ろにまだエディになる前の能面みたいなお面、ロゴがあるわけですね。これもかっこいいし、それで一曲目がWrathchildという曲がはじまって、ポール・ディアノ(Paul Di'Anno)が上半身裸に革ジャンでバーッと走ってきてマイクスタンドで歌うわけ。これはすごいバンドだと。それでアイアン・メイデンとその後お会いしていろいろな話をして、このバンドを日本に紹介しない手はないと。このアイアン・メイデンのためにひと肌もふた肌も脱ぎたいと。それで日本に帰ってきてアイアン・メイデンを紹介することになったわけですよ。その時に気が付いたのは、アイアン・メイデンだけではなく数多くのバンドがイギリスから出てきていて、デフ・レパード (Def Leppard)だとかサクソンだとか。それをイギリスの音楽新聞の人がNWOBHM (New Wave Of British Heavy Metal) と名付けて、新しいムーブメントだったわけですね。それがいまの仕事をやるきっかけとなって、このバンド達を紹介して成功させるのが僕の使命かなと思ってね。そういう意味ではアイアン・メイデンには本当にきっかけを与えていただいたと今でも思っています。

4、へヴィメタルの教科書「The Number Of The Beast」

 ポール・ディアノ時代も大好きですけれども、今日私の名盤として選んだのは三枚目の「The Number Of The Beast」なんです。このアルバムは、我々が思うへヴィメタルのイメージをパッケージ化して提示してきたというか、バンドのロゴ、アートワーク、Tシャツ、曲の雰囲気・タイトル・歌詞で、これがへヴィメタルですよと、そういう意味ではアイアン・メイデンは教科書的なへヴィメタルの象徴として、若者にへヴィメタルを提示してきたということで、この「The Number Of The Beast」というアルバムを選びました。それではまず一曲目、アルバムタイトルの曲を聴いていただきましょう。The Number Of The Beast。

 

 アイアン・メイデンって80年代以降の時代を変えたバンドの一つだと僕は思うし、へヴィメタルって何って質問された時に一番分かりやすいのはアイアン・メイデンのアルバムを聴いてくださいと。そうすると、やっぱりへヴィメタルはこれですねってなりますね。やっぱりアイアン・メイデンのバンドのロゴと、アートワーク、ジャケットのインパクトとThe Number Of The Beastという曲、あるいはタイトル。すべてがへヴィメタルというイメージから想像されるすべてで、ここに全部まとまっているのよ。

5、世代を超えた一体感が味わえるアイアン・メイデンのコンサート

 アイアン・メイデンのキャラクターであるエディがアイアン・メイデンのコンサートで必ずステージに登場して、最後のウワーっと盛り上がる時にこの怪獣みたいなのが出てくるわけですよ。アイアン・メイデンのファンはもう40歳だとか50歳の方もたくさんいるのよ。いいことは10代の子も次々にアイアン・メイデンのファンになるわけ。そうすると、10代、20代、30代、40代、50代の人が、アイアン・メイデンのコンサートで最後エディが出てくる時に、50代の大人までがオーってやる。ここがいいよね。10代のイェーイじゃなくて50代のオーっていう、この世代を超えた一体感はなかなか味わえるものじゃない。こういうことは社会一般ではあまりないけど、アイアン・メイデンとかへヴィメタルのコンサートではよくある。で、アイアン・メイデンがいまだに現役で、去年単独のコンサートでこんなに客が入るのかって。僕はスウェーデンで見たんですけれども、5万6000人くらい入るのは。単独だよ。こうやって時代を生き延びて新しいファンを開拓しながら、まあハードロック・へヴィメタルというのは大ブームになることはないけれども、カルト的な音楽として常に一定層のファンはいるから、そういう意味ではアイアン・メイデンが現役で頑張ってくれていることが、ハードロック・へヴィメタルの健在の証なのかなと思います。

6、アイアン・メイデンの曲は長い説

 アイアン・メイデンのリーダーのベーシストであるスティーヴ・ハリスは、長尺の曲が大好きで、新しいアルバムが完成して僕が聞いたら、10分くらいの曲が2曲もあるんだよ。「長いね」っていったら、「曲を作っていると時間関係なく作ってしまうから、9分、10分の曲は当たり前」と。これから聞いていただく曲は7分くらいあるんですけれども、こういう長尺な曲にダイナミズムというか、いろいろな要素をいれて、へヴィメタルバンドらしい曲を作ったというのは、アイアン・メイデンが走りだと思うのね。ではその曲を聞いてみましょう。Hallowed Be Thy Name。

 

7、メタルは予定調和である説

 エンディングのダダダダンダダダダンはお決まりとはいえ燃えるね。最近はあまりこういう終わり方はないけれども、アイアン・メイデンはニューアルバムでもこういう終わり方です。自分たちのスタイルがあるからね。メタルって割と予定調和的というか、こうなるだろうというファンの期待を裏切らないことが多いよね。それを退屈だという人もいるんだけれども、それを分かってなおそのバンドに感情移入していくっていうことが、へヴィメタルのファンなのかもしれません。ただ、アイアン・メイデンの場合はHallowed Be Thy Nameでも分かるように、いろいろなエレメントを楽曲の中にいれて構成しているから、普通のハードロック・へヴィメタルバンドとは違うと思う。例えば、イギリスのプログレの影響であるとか、ジェスロ・タル(Jethro Tull)みたいなフォーキーなバンドであるとか、いろいろな要素をいれて長い曲も短い曲も作っている。で、やはりキャッチーというかわかりやすい。

8、古臭くならないアイアン・メイデンの音

 僕はアイアン・メイデンのどのアルバムを好きなんだけれども、このアルバムのわかりやすいのは、さっきもいったようにへヴィメタルはどんな音楽ですかということを、いろいろな要素をいれて作っているということですよ。しかも、1982年でいまから24年前の作品なんだけれども、古臭さを感じないです。すごいものというのは時代を超越してなお新鮮さを保ち続けているっていう感じがします。で、面白いのがアイアン・メイデンが初期のシングルを記念日、例えば20年という節目の年に、もう一回かつてのシングルを再発売することが何回かあるんですよ。例えば、これから聞いてただくRun To The Hillsもシングルカットを数年前にしたのね。そしたらものすごく売れて、1982年にシングルを出した時よりもチャートが上にきちゃって、メンバーも戸惑っていたので、それだけ発売した後からファンになった人がずいぶん多くて、若いファンがずいぶん多いってことね。やっぱりロックバンドをやっていく上で、ノスタルジックにならないで新しいファン層を耕していくっていうことはすごく大事なことだと思うんですよ。その辺をアイアン・メイデンは実践しているなと思います。Run To The Hills。

 

9、ハードロック・へヴィメタルは歌が大事である説

 やはり、ブルース・ディッキンソン(Bruce Dickinson)は上手ですよね。僕は、ハードロック・へヴィメタルはギターは大事だけれども、歌が大事だと思っている人間なので、歌の表現力が弱いと全体が壊れる。これはハードロックだけじゃないかもしれないけれども。これだけの歌い方ができるブルース・ディッキンソンはすごいなと思います。

10、まとめ

 このバンドに出会わなければ、伊藤政則という人間がどうなっていたのか分からないという意味においては、僕の恩人であるし、79年のあの夏に彼らと出会ったことが、おおいなる刺激となって今の僕を支えているのかなと。アイアン・メイデンのどのアルバムも名盤にいれてもいいかなと思いますね。僕はね。1980年以降、日本では一気にハードロック・へヴィメタルのムーブメントが起こしまして、10代のファンを中心にどんどんブームが来まして。あの時にアイアン・メイデンに出会って架け橋になったことはよかったなぁと思いますよ。今こうして2006年の現在でもアメリカでもヨーロッパでも新しいへヴィメタルの時代がきて新しいバンドがいっぱい出てきていますけれども、それもこれもアイアン・メイデンがイギリスから登場して、1979年ですけれども、あれから27,8年たったけれども、未だに凄いという。継続は力じゃないですか。アイアン・メイデンは浮き沈みの時代はあったけれども、今日に至って5万人6万人のファンを飲み込むくらい、ある意味へヴィメタルのアイコンですからね。象徴ですから。これからも頑張っていってもらいたいと思いますよ。Children Of The Damned。

 


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