ラジオFMのメモ

NHK-FMWorld Rock Nowでの渋谷陽一氏の解説で面白かったものをメモしてゆきます。

2016年の音楽シーンを席捲したのはトロピカル・ハウス(Tropical House)なのか、ダンスホール (Dancehall)なのか?

アメリカン・ミュージックの系譜第一回 講師は大和田俊之氏です。

1、2016年の音楽シーンを席捲したレゲエのダンスホール

 2016年のビルボードチャート年間2位のジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)でSorry。



 この曲のリズムに注目してほしいと思います。次にビリボード第3位のドレイク(Drake)でOne Danceという曲を聴いてもらいます。ドレイクはカナダ人のラッパーで、アフリカ系でトロントを中心に活躍しているんですけれども、ただアメリカのヒップホップシーンでもっとも人気があるラッパーの一人です。この人のOne Danceという曲がアメリカ合衆国で三番目にヒットした、多分アメリカに住んでいれば誰でも聞いたことがある曲ですね。


 4位のリアーナ(Rihanna)はバルバドス出身の非常に人気のあるR&Bの女性アーティストですけれども、そのWorkという曲です。


 ジャスティン・ビーバー、ドレイク、リアーナの3曲を聞いていただきましたが、この3曲には共通点があります。ジャンルも異なるし出身も異なるんですけれども、全部同じリズムなんです。ズッタズッタズッタズッタという。特にジャスティン・ビーバーのSorryとドレイクは基本的にずっとズッタズッタのリズムです。これはダンスホールというジャマイカをルーツとするレゲエのサブジャンルです。1970年代後半に生まれて80年代90年代とずっとビートが進化していった、ジャマイカ発のリズムです。簡単に言うと2016年のヨーロッパとアメリカは、ほとんどこのリズムが世界的にヒットしたということです。中南米のリズムがアメリカで最もヒットしているということになっているんですね。さらにランキングを見ていくと、11位にSia feat. Sean PaulでCheap Thrillsという曲があります。これもまったく同じリズムの曲なんですが、このショーン・ポール(Sean Paul)という人がジャマイカのシンガーなんですね。この中で唯一本場ジャマイカのシンガーということになります。


 はっきりとダンスホールのリズムが聞けると思います。この4曲でレゲエの本場ジャマイカ出身の人は、この11位に入っている、それも主演ではなくフィーチャリングされているショーン・ポールのみです。

2、ダンスホールなのか、トロピカル・ハウスなのか?

 私は今までダンスホールと言ってきましたけれども、2016年に音楽業界でちょっとした論争がありました。このダンスホールと同じズッタズッタズッタズッタというリズムのことを片方ではトロピカル・ハウスという風に呼ぶ人もいるんですね。このトロピカル・ハウスというのはどこから出てきたのかというと、主にヨーロッパの白人のEDMのDJ達です。彼らは、この同じリズムをトロピカル・ハウスって最初呼び出したんです。しかし、これはトロピカル・ハウスではなくて、ジャマイカ発のダンスホールなんだということを、ジャマイカのアーティストを中心に反論があがっていきました。これはどういうことかというと、アメリカの音楽史で何回も繰り返されている、アフリカ系、つまり黒人のビートを白人が搾取したということです。トロピカル・ハウルというのはものすごく売れて、ヨーロッパの白人のDJ達が何万人も集めるような音楽フェスでやったんですけれども、ダンスホールを商業的に少しアレンジしたのがトロピカル・ハウスということです。

3、アメリカにおけるヒスパニック系移民の増大とトランプ大統領の出現

 つまり、2016年にアメリカで一番流行ったのは、カリブ海のジャマイカのリズムだということです。しかも、上位にいるアーティストは必ずしもアメリカ出身ではなくて、カナダだったり、バルバロスだったり他の国の人が、中南米の、カリブ海のビートを用いた曲が、アメリカで最もヒットしているということです。これはとりもなおさず、アメリカにおいて1990年代以降のヒスパニック、あるいはラテン系の移民の増加が影響をしています。今アメリカで最大のマイノリティーはアフリカ系ではなくてヒスパニック系になっているんですけれども、どんどん増えている。それがさまざまな形で文化に現れてきているということなんですね。音楽文化に限りませんけれども、トランプ大統領の当選というのは、このようなアメリカ社会全体の人口動静であったり、文化においてどんどんヒスパニック的なものがせり出してきている事に対する、簡単にいうと反動であると言えます。白人達がもうこれ以上自分達が脅かされるのは勘弁してほしい、アメリカはヨーロッパ系の移民が作り上げた国なんだという、反動として見ることができるのです。ある予測によると2050年にはヒスパニック系の人の人口が3人に1人とか4人に1人になるという話があって、今アメリカにおけるアフリカ系の黒人の割合って12.6%なんですよ。なので、アフリカ系アメリカ人が今はそのくらいの割合で、3人に1人とか4人に1人がヒスパニック系になったら、それはもう私たちが知っているアメリカではなくなってしまうということは言えると思います。つまり、トランプが支持された理由として、音楽文化においても中南米的なもの、ラテン的なもの、ヒスパニック的なものがメインストリームにせり出してきているということが一つ言うことができるということです。

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