音楽のおべんきょうφ(.. )メモメモ

NHK-FMWorld Rock Nowでの渋谷陽一氏の解説で面白かったものをメモしてゆきます。

アメリカン・ミュージックの系譜(2) ブルースの誕生

アメリカン・ミュージックの系譜第二回 講師は大和田俊之氏です。

1、一般的なブルースの誕生の解説

 ・西アフリカのアフリカ人が奴隷としてアメリカに連れてこられ、奴隷制下で黒人のワークソング、つまり働きながらコール&レスポンスで歌っていくという音楽があって、南北戦争後に奴隷がいちおう解放されて、解放された奴隷がこれまで奴隷コミュニティーの中で閉じ込められていたものが、個人の内面というものが奴隷の中に生まれて、フィールド・ハラー(Field holler)と言われる黒人の音楽実践となり、それが19世紀末にブルースとなった、とブルースの誕生を一般的な解説では説明しています。

2、通説に対する批判

 ・アフリカの音楽とブルースは、音楽の形式としてはそんなに似ていません。さらに、奴隷制下の黒人のワークソングと呼ばれるものと12小節A・A・B形式のブルースは、音楽形式としてはほとんど似ていません。私たちが、西アフリカの音楽→奴隷制下のワークソング→フィールド・ハラー→ブルースという直線で説明される歴史をなんとなく納得してしまうのは、単純に黒人がやってきた音楽実践をつなげているだけだからです。黒人がやってきた音楽実践だけでブルースは説明できるのか、それ以外の要素は全く入っていないのかという研究が、アメリカではどんどん盛んになってきています。

3、ブルースはどのようなメディアに記録されてきたのか?

 (1)、問題設定

  ・ブルースがどのように始まったのかについて、現在ではまだはっきりとはわかっていません。現在、答えられる問いは、ブルースはどういうメディアに記録されてきたのかということです。

 (2)、楽譜

  ・楽譜にブルースが現れるのが多くの本では1912年となっていますが、最近、ニューオリンズの音楽出版社が発行している1908年の楽譜が発見されました。さらに、これは白人の作曲家でした。つまり、1908年の時点ですでに白人の作曲家がブルースを作曲して、楽譜に落として、商品として流通させていたということです。19世紀末にブルースという新しい音楽が生まれたのだとすると、それから白人が商品化するまでに十数年しかたっていません。よって、ブルースという音楽をイメージするとき、最新の研究成果をもって排除しなければいけないイメージは、黒人コミュニティーの中で長い年月をかけてはぐくまれてきた音楽実践が、やっと白人に発見されて世に出て来たという見方です。ブルースは初期の段階から白人の手が入っていたんです。

 (3)、録音

  ①、最初のブルース録音は何か?

  ・1920年のメイミー・スミス(Mamie Smith)の「Crazy Blues」が最初のブルース録音ということになっています。これは12小節A・A・B形式の曲ではありませんが、曲名に「Blues」と入っているので、一番最初のブルース録音とされているんです。12小節A・A・B形式ではないブルースの曲もあるので一概にこの形式を踏まえていなければブルースとは言えないというわけではありませんが、少なくとも、最も狭い意味でのブルースの要件は満たしていないということになります。

   12小節A・A・B形式ではなく、どちらかというと初期のジャズにサウンドは近いと思います。そもそもブルースをどういう風に定義をするのか、曲名に「Blues」と入っていれば全部ブルースにするのかというと、軍楽隊や白人のシンガーによるブルースの録音がこれ以前にあることが分かっています。ところが、この「Crazy Blues」が公式に最初のブルース録音とされているのは、この曲が最初の黒人女性による「Blues」というタイトルの曲だからなんです。ここにはいろいろな選択が働いています。つまり、ブルースとは黒人音楽という定義があって、では最初の音楽は黒人の音楽であることが望ましいという判断があり、この「Crazy Blues」が最初のブルース録音であるとなっているんですけれども、実はインストであったり、白人のシンガーによる曲名に「Blues」という単語が入っている曲は、これ以前にも存在しているんです。1912年の段階でブルースの楽譜は流通していましたから、白人を中心とする音楽業界にブルースはだいぶ「発見」はされていました。レコーディングもされていたということになりますね。



  ②、メイミー・スミスの「Crazy Blues」の歴史的意義

   ・では、メイミー・スミスの「Crazy Blues」は歴史上価値がないのかというとそういうことはありません。歴史的には非常に意味のある曲です。このレコードはとんでもなく売れて、数か月で数万枚売れたという資料がありますけれども、これをレコード会社が追跡調査をしたんですね。その結果分かったことは、この曲が突出して黒人コミュニティーで売れたということです。この曲が売れたことによって、レコード会社は自社内に小さなレーベルをたちあげて、黒人コミュニティーに特化したレコードを作り始めます。「レイス・レコード(Race record)」という今で言うとかなり差別的なレコードですけれども、この時にアメリカの音楽産業ははじめて、人種に基づく音楽ジャンルの分節化を具体的に設定したことになります。それで、一般の白人にはほとんど聞かれないような、黒人コミュニティーに特化したレコードがレコード会社の中で作られるようになって、それが緻密なマーケティングにより流通させられていきました。そういった中で、レイス・レコードというものがどんどん普及していくわけですけれども、ブラインド・レモン・ジェファーソン (Blind Lemon Jefferson)の「Matchbox Blues」がレイス・レコードの典型といっていいと思いますので聞いてください。



  ③、カントリーブルースとシティーブルース

   ・メイミー・スミスの「Crazy Blues」と比べると、非常に簡素なアレンジですよね。アコースティックギターの弾き語りです。ブルースファンの間では、今聞いていただいたようなアコースティックギターでの弾き語り、とりわけ男性ボーカルが多いのですが、カントリーブルースやフォークブルースと呼んで、先ほどのような女性が華やかな衣装を着てステージでビッグバンドを率いて芸能的なというかエンターテイメント色の強いものをシティーブルースという風に言っております。世界的に、ブルースファン中でもっとも評価が高いというか、これこそが本物のブルースだと言われるのは、どちらかというとこのアコースティックギターの弾き語りによる男性ボーカル、つまりカントリーブルースの方ですね。その中でもっとも有名な、そしてブルースの中で最も評価の高い曲を聞いていただきます。ロバート・ジョンソン(Robert Johnson)で「Cross Road Blues」。



    メイミー・スミスの「Crazy Blues」と比べると、私たちはアコースティックギターの弾き語りの方がより黒人的だというか、より黒人の音楽のよさが出ている音楽であると自動的に思ってしまう傾向があります。それは黒人音楽というと私たちは、簡素な中にある力強さとか、ノリの良さとか、そういったものを自動的に思い浮かべるんですね。黒人音楽と言った時に、難解な音楽理論を駆使する音楽ということは、あまり私たちは思い浮かべません。なぜ思い浮かべないのかというと、黒人というものの民族音楽性のようなものを、私たちが知らないうちに自明のものとしてしまっている、黒人文化というものはテクニカルで難解な音楽理論を駆使した音楽ではなくて、躍動的であるとか素朴な中にある力強さといった言葉で、僕たちは自動的にイメージしてしまいます。そこに何等かの先入観が入っていないでしょうか。ロバート・ジョンソンのこの曲は、1950年代1960年代の時のブルースリバイバルの時に最も評価されて、エリック・クラプトン(Eric Clapton)が在籍していたクリーム(Cream)がカバーして一躍有名になったんですね。このクリームがカバーしたり、ローリング・ストーンズであったり、ビートルズであったり、とりわけ当時のイギリスの若者達がブルースの中でも特にカントリーブルースを評価しました。そこに悪意はないわけですが、やはり黒人音楽というものはこうあってほしいマジョリティー側の先入観を指摘することができます。アメリカの白人を中心とするマジョリティーとマイノリティーの関係ですね。白人が常に黒人のステレオタイプというものを用意している。そして、黒人側はそれを内面化する場合があります。1940年代1950年代にすでにアコースティックギターではなくエレクトリックギターを持っていた南部の黒人のギタリストが、白人のレコード会社の人間が来るといったときに、わざとボロ着に着替えて、わざとアコースティックギターに持ち替えてステージにたちました。この方が売れるからでしょっていう感じで。その方が白人が持っているステレオタイプの黒人のブルース像に合うから。ただし、黒人の方から白人が持っているステレオタイプに抵抗する場合もあるんですね。白人に抵抗してそのイメージを修正していうという。しかし、ブルースで重要なことは、すでに白人が持つ黒人のステレオタイプを黒人自身が内面化していく、あるいはそれに抵抗するといった、言ってみればステレオタイプの応酬が、アメリカ音楽のダイナミズムとしてすでに見ることができるということです。

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