アメリカン・ミュージックの系譜第九回 講師は大和田俊之氏です。
1、意義
(1)、ガレージロックムーブメント
・1950年代にロックンロールという音楽ジャンルが生まれて、突如としてアメリカのメジャーな音楽ジャンルになるわけですけれども、ロックンロール自体は非常に短命に終わります。主要なプレイヤーがさまざまな不幸に見舞われて、音楽シーンから退場してくわけですね。まず、エルヴィス・プレスリー (Elvis Presley)が徴兵されてドイツに行ってしまいます。リトル・リチャード(Little Richard)は神の啓示を受けて音楽活動をやめて教会に行ってしまいます。バディ・ホリー(Buddy Holly)は飛行機の事故で亡くなってしまいます。チャック・ベリー(Chuck Berry)はちょっと悪いことをやって捕まってしまいます。ロックンロールの主要なミュージシャンが音楽シーンからいなくなってしまいます。しかし、この時期に起こる重要なムーブメントとして、ガレージロック (Garage Rock) のムーブメントがあります。ガレージロックというのは、文字通りガレージで練習するロックですね。エルヴィス・プレスリー (Elvis Presley)であったり、ジェリー・リー・ルイス('Jerry Lee Lewis)であったり、そういうロックンロールのスターを見て影響をうけた若い人たちが、今度は自分達でバンドを組んで、ちょっとしたバンドブームが全米で起こります。
(2)、サーフミュージック
・そのバンドブームの中でもとりわけ南カリフォルニア特有の地域的なサブジャンルがあって、それがサーフミュージックと呼ばれるものです。ここから出て来たのが、ザ・ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)です。初期のヒット曲でSurfin' U.S.A.。
2、ロック=エイトビートはガレージロックで生まれた
(1)、意義
・ビーチ・ボーイズは、ガレージロックであったり、サーフミュージックであったりのジャンルの音楽なんですけれども、あるアメリカのポピュラー音楽の研究者は、ここでアメリカのポピュラー音楽の主要なリズムが変わったというんですね。1950年代までのアメリカのポピュラー音楽の基本的なビートは三連だったんです。タタタタタタタタタタタタとちょっとはねるわけですね。スイングなんかもスイングしないとダメだということですけれども、今聞いてもらいましたビーチ・ボーイズはよりフラットなエイトビートになるわけですね。ロックは基本的にエイトビートを主体とする音楽なわけですけれども、実はエルヴィス・プレスリーとかのロックンロールは割と三連なんですね。つまりロックンロールまでは三連なんだけれども、ガレージロック以降はエイトビートになります。このリズムパターンの変化が、ロックとロックンロールを分けるべきであると考える一つの理由です。
(2)、理由
・なぜこのような変化が起きたのかということは、いろいろな説明ができるんですけれども、まずはツイスト(twist)というダンスが流行します。ツイストというのはエイトビートですね。だから、これに合わせたという話もあるんですけれども、面白くてよりシンプルな説明としては、ロックンロールとロックは何が違うのかというと、エルヴィス・プレスリーはもちろんエルヴィス・プレスリーなんですけれども、エルヴィスのバックで弾いているミュージシャンはプロのスタジオミュージシャンなんですよね。ところが、これを見て自分達でガレージで練習をし始めた若者たちは、みんな素人なわけです。演奏してみると三連の方が難しいわけであって、簡単に言うとガレージロックをやった素人達は下手だからエイトビートになったということです。プロフェッショナリズムが問われる三連のリズムから、よりベタなエイトビート広まり、このエイトビートがアメリカの音楽の主流になっていったわけです。
(3)、ロックの核はアマチュアリズムである
・エイトビートは、ロックの重要な特質を反映していると私は考えています。それはアマチュアリズムというか、ロックくらいなんですよね。下手であることが問題にならないというか、ロック好きな人ってうますぎると批判したりしますよね。これがジャズとかヒップホップもそうなんですけれども、黒人音楽はスキルが非常に重要視されます。しかし、例えばパンクロックなどを聞いてもらえれば分かると思いますが、上手いということは何のメリットにもならないどころか、「あいつはうまいけど・・・」みたいなデメリットにすらなるわけです。これは、ロックという音楽の核にアマチュアリズムがあって、それはガレージロックを起源として、友達同士やいとこ同士で始めたということが、ロックという音楽の根底にあるわけです。