ラジオFMのメモ

NHK-FMWorld Rock Nowでの渋谷陽一氏の解説で面白かったものをメモしてゆきます。

アメリカン・ミュージックの系譜(22) モータウンとスタックス

アメリカン・ミュージックの系譜第十回 講師は大和田俊之氏です。

1、公民権運動と音楽

 (1)、公民権運動

  ・R&Bとソウルミュージックについてお話しします。基本的に公民権運動の時代です。公民権運動と言った時に、1954年のブラウン対教育委員会裁判の最高裁の判決が出て、「分離すれど平等」という半世紀に渡って行われてきた人種差別的な政策が違憲であるという判断がされました。これによって公民権運動は一気に盛り上がって、キング牧師が出てきてということですね。1964年に包括的な公民権法が制定されます。

 (2)、1964年以前の公民権運動

  ・1964年の公民権法制定以後も公民権運動は続きますけれども、1964年以前と以降で公民権運動の性格がちょっと変わってきます。1964年以前は、白人が一緒になって運動を支えていたわけです。白人の大学生とか、白人の文化人・知識人みたいな人達がキング牧師とともに運動にかなり参加していました。この公民権運動を支えた音楽というのは、フォークミュージックでした。フォークは商業主義ではないので、政治的なメッセージを込めることができました。

 (3)、1964年以後の公民権運動

  ・しかし、1964年に公民権法が制定されますが、公民権法の制定によってアフリカ系アメリカ人の境遇がドラマチックに改善されることはありません。そのことに不満を持った一部の黒人が運動をします。この運動はブラックパンサー (black panther)のように、割と武装蜂起も辞さずというか、武力に訴えてもこの境遇を変えなければならないと、かなり戦闘的なものになります。そうした時に、これまでいっしょに戦ってきた白人達は、ちょっとこれはさすがについていけないぞということで、運動から離反していく人も結構いました。そうした中で、1960年代後半は割と黒人色が強い、アフリカ系アメリカ人を中心とするアグレッシブな運動になっていきます。この時代の音楽が、R&B、ソウル、ファンクです。

2、モータウン

 (1)、意義

  ・公民権運動の時代にどのような音楽が流行していたのかというと、まず非常に音楽的に重要なのは1959年にベリー・ゴーディー(Berry Gordy)という人が、モータウン・レコード(Motown Records)を創設します。モータウンから、例えばダイアナ・ロス(Diana Ros)とか、マーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)とか、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)とか、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)とか錚々たる人が出てくるわけです。

 (2)、モータウンサウンドの特質

  ・モータウンはブリル・ビルディング・サウンド(Brill Building Sound)、今ではオールディーズ (Oldies)とも言いますが、このシーンに属していたといっていいと思います。つまり、軽快で売れ線のポップスとして同時代的には受容されていたということです。ただ、ブリル・ビルディング・サウンドでもそうなんですけれども、黒人のアイドル的なシンガーが歌って、全国的なレベルで人気を博しました。モータウンは、社長のベリー・ゴーディーを筆頭に、専属の作曲家作詞家、専属のスタジオミュージシャン、もちろんアーティストもそうですけれども、ほとんどがアフリカ系でした。黒人で占められていた会社で、その意味でも画期的な会社でした。後期のモータウンの代表曲で、The Jackson 5のI Want You Backを聞いていただきます。




  モータウンという会社は、モータータウンからきているわけで、自動車産業が盛んなデトロイトに拠点をずっとおいていたわけですが、1960年代後半から1970年頃にロサンジェルスに拠点を移しています。The Jackson 5は西海岸に移ってからの曲なので、1960年代のモータウンの黄金期というよりは後期の曲ではありますけれども、マイケル・ジャクソンという不世出のアーティストを排出したグループですね。

 (3)、モータウンはなぜ売れ続けたのか

  ①、問題提起

   ・モータウンは、シーンとしてはブリル・ビルディング・サウンドという当時もっとも売れているシーンに関わっていたわけですね。1964年にビートルズがアメリカに来て、ブリティッシュ・インヴェイジョン(British Invasion)というアメリカのチャートがイギリスの若い男性のバンドに席捲されてしまうことがおこるわけです。このブリティッシュ・インヴェイジョン以降でアメリカのアーティストでチャートに食らいつくことができたのは、モータウン勢とビーチ・ボーイズだという風に言われています。つまり、モータウン以外の他のブリル・ビルディング・サウンドの黒人のアイドルグループは、ブリティッシュ・インヴェイジョン以降はチャートに残ることができませんでした。なぜモータウン勢とビーチ・ボーイズだけはブリティッシュ・インヴェイジョン以後も残ることができたのかについて面白い考察があります。

  ②、モータウンはなぜ売れ続けたのか

   ア)、「曲」から「アーティスト」の時代へ
 
    ・1920年代1930年代1940年代1950年代とティン・パン・アレー(Tin Pan Alley)の時代からロックンロールの時代を経てブリティッシュ・インヴェイジョンに来るわけですけれども、ティン・パン・アレーの時代とロックンロールの時代で何が変わってきたのかと言うと、ティン・パン・アレーの時代は曲が大切で、みんな「この曲」「この歌」という形で認識をしていましたが、ロックンロール以降はアーティストが中心で、「エルヴィス・プレスリーの〇〇という曲である」「ビートルズの〇〇という曲である」と言う風に、ポピュラー音楽を認識していく対象が楽曲が中心であった時代から、アーティストが中心である時代になりました。これは1940年代くらいから出て来たテレビの影響が非常に大きいと言われていますが、見てアーティストが歌っているという姿が音楽の認識に影響を与えたわけです。

   イ)、スターシステムをとったモータウン

    ・モータウン勢というのは、例えばダイアナ・ロス&ザ・スプリームス(Diana Ross & the Supremes)みたく、中心に誰がいるのかということが分かるようにスターシステムを作るわけですね。例えば、モータウンではないブリル・ビルディング・サウンドの同じようなグループとしてシュレルズ (The Shirells)がありますが、このグループのメンバーの名前は誰も覚えていないと思います。つまり、モータウンは、このグループのスターはダイアナ・ロスであるとちゃんと真ん中のスターを決めることによって、ビートルズ、ジョン・レノン、ポール・マッカートニーといったようなアーティストを中心にみんなが認識をするようになったポピュラー音楽界においてもきちんと生き残ることができたという解釈がありまして、これは面白いと思います。

3、スタックス

 (1)、意義

  ・デトロイトを中心とするモータウンに対して、同時代に南部のメンフィスにも非常に重要なレコードレーベルがありました。スタックス・レコード (Stax Records)の前身のサテライト・レコードが1959年に創設されました。メンフィスを中心に活躍していたアーティスト、例えばオーティス・レディング(Otis Redding)であるとか、サム&デイヴ(Sam & Dave)であるとかそういった黒人ミュージシャンが人気を博していました。

 (2)、本物の「黒人」音楽としてのスタックス

  ①、本物の「黒人」音楽としてのスタックス

   ・モータウンと比べるとそれほど売れてたわけではありませんが、音楽好きの間ではスタックスの方が本物の「黒人」音楽であるというような言い方がよくされていました。本物の「黒人」音楽であるというのは、モータウン勢に比べると非常に荒々しいというか、アレンジは粗野で素朴で、歌い方はドラマチックで躍動感があって、非常にパワフルであるという意味ですね。音楽的に言うと、モータウンはストリングスのアレンジで洗練された形であるとすると、スタックスはホーンセクションがあって力強くてパワフルでグルーヴがあってと、私達が持っている黒人音楽のステレオタイプに合致するのがメンフィス勢でありました。1980年代くらいまでは「黒人音楽が好きだ」といってモータウンというと、あんなものは黒人音楽ではないという人が結構多くいました。モータウンは白人に魂を売った黒人音楽でというイメージが全世界的にあって、本物の黒人音楽はメンフィス勢のオーティス・レディングであるという認識が割と長い間続いていました。1990年代以降になると、日本でもシカゴのソウルであるとかデトロイトのソウルなど洗練された音楽も黒人音楽として見做すという風潮が出てきました。いずれにしても、これこそが本物の「黒人」音楽だという典型として考えられていたオーティス・レディングの曲を聞いてください。Respect。



  ②、本当にスタックスは本物の「黒人」音楽なのか?

   ・スタックス・レコードでも、モータウンと同じように専属バンドがあって、スタックスの楽曲ではだいたいブッカー・T&ザ・MG's (Booker T. & the M.G.'s) という専属バンドが演奏していました。実はこれはモータウンとは異なって、ブッカー・T&ザ・MG'sはメンバーの半分が白人なんですね。つまり、サザンソウルといいますけれども、スタックス・レコードのサウンドを決定づけていたバンドの半分が実は白人である。さらに、スタックス・レコードの社長も白人なんですね。もちろんアーティストは黒人が多いんですけれども、サウンドを握っているバンドの半分は白人であると。他方、モータウンは社長以下全員が黒人であると。しかし、モータウンの方が白人に媚びを売ったという風にみなされて、メンフィスのオーティス・レディングの方がより本物の黒人っぽいと、日本だけではなくてアメリカでも多くの人たちがそう考えていました。これは、私達がかなり黒人音楽というものをステレオタイプで見てしまっている、黒人音楽はソウルフルで躍動的なものであるべきだとどこかで思っているということですよね。

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