ラジオFMのメモ

NHK-FMWorld Rock Nowでの渋谷陽一氏の解説で面白かったものをメモしてゆきます。

レイ・デイヴィス(Ray Davies)はへそ曲がりじゃないとつまらない説

world rock now 20060217

 言うまでもなくキンクスの中心メンバーでありロック史に燦然と輝く歴史をたくさん残しているすばらしいアーティストであるレイ・デイヴィスが自分のソロを発表しました。Run Away From Time。



 レイ・デイヴィスはもうおっさんを通り越しておじいちゃんに近づいてる年齢なんですが、今回の作品はそういう自分と正直に向き合い、ぐずぐず言わないで時代と呼吸して素直にやっていこうという、年寄りの僻みみたいなところから脱しよう、またニューオリンズで音を作ったりしているんですが、レイ・デイヴィスというとブリットポップのゴットファーザーみたいな言い方をされるんですが、それは違うと。俺はアメリカの音楽からすごく影響を受けていて、すごく好きで、ただキンクスってアメリカのユニオンから一度拒否されたことがあって、そうした意味で彼自身アメリカに対して複雑な思いがあって、アメリカ的なものを拒否していたところがあるけれども、そういうのも全部だそう、とにかく素直に出そうというのが今回のアルバムになっていますが、私から言わせるとそんなレイ・デイヴィスなんて面白くない。やっぱりへそ曲がりじゃないとつまらないじゃんみたいなところがあってですね、全体としてニューオリンズと素直な曲と、このRun Away From Timeも昔の自分から逃げ出すんだという曲なんですが、そういうのがアルバムの主要トーンになっているんですが、一曲だけそうじゃないのがあって、私はそれをかけたいと思います。Stand Up Comicという曲なんですが、レイ・デイヴィス自身が「すでに言ったように僕は過去と決別しようといろいろやってみたわけだけれども、過去というカタログはあらゆる意味で自分についてまわる。僕は別人になりたかった。思慮分別のある素敵な人間に。そんなときにこのStand Up Comicは新しいプラットホームにわが身を置こうとする僕を妨害するかのように出来上がった。この小さい悪夢はずっと僕につきっきり。僕を困らせてよりよい自分になろうとすることを拒否させる。」と言っている曲なんですが、これはどういう曲かというと、「な~んだ若い奴なんか糞くらい」みたいな曲なんですね。これですよ。レイ・デイヴィスは。

 陽気な楽天家がオスカー・ワイルドを気取り
 流行の追っかけ屋は今はこれがヤバイねなんて言う

 ウィリアム・シェークスピアが今週のくだらない言葉に選ばれ
 違った意見を言おうものならまるで思いっきり骨董品扱い

 ノエル・カワードは生きるのが困難になり芸人はバカなことをいいみんながあざ笑う
 それがどうした 流行っていうところだろう

 昔はそんなんじゃなかった でも昔はバカは少しだけ
 今は回りはバカだらけ 道化が屁をしりゃ客も屁で返す

 陽気な楽天家がしゃれ者をきめこみ
 アグロカルチャーを創造するとかくだらないことを言う

 チンピラどもはやたらと機転をきかし
 ワーキングクラスヒーローは髪を染める

 去年褒められたヒーローが舞台にでると今年はみんなに野次を飛ばされる
 それがどうした マナーっていうところだろう

 昔はそんなじゃなかった でも昔はバカは少しだけ
 今は回りはバカばかり 芸人があくびをすりゃみんなあくび

 それだけのことさ

ベント・ファブリック(Bent Fabric)に学ぶ代理店仕事の音楽制作とは?

world rock now 20060303

 ベント・ファブリックでEverytime。



 ベント・ファブリックはいま輸入盤シーンでは話題になっておりまして、彼のJukeboxというナンバーは結構いろいろなところでかかっています。どういう人かというとデンマークの81歳のジャズピアニストなんですよね。彼の40年ぶりのアルバムがこの「Jukebox」になります。彼のキャリアを振り返るとなんとグラミー賞を受賞しているという。それが第五回目のグラミー賞というのがすごいですけど。1962年に最優秀ロックンロールレコーディングという項目でグラミーを受賞している大変なベテランアーティストで、それがこのように突然日本の輸入盤シーンで大盛り上がりで、各国でJukeboxというナンバーが注目されていて本人もビックリという状況のようでございます。ベント・ファブリックというのはグラミー賞も受賞したAlley Catという1962年の大変なヒット曲を持っていて、それで今はデンマークのカルチャーセンターを周りながら年に30本40本のコンサートをいまだにやっているおじいさんなんですけれども、昔を知っているレコード会社のスタッフが来てもう一回グラミー賞を受賞したAlley Catの21世紀バージョンをやってみませんかという提案をうけて、じゃあやってみればという感じで、現実的にはご本人はこの企画にほとんど関与していないようでございまして、ライナーノーツによりますと、「このアルバムのほとんどの曲にボーカルがついているんですが、あなたはその人選にかかわっていないんですか」という質問に対して、「ああまったくかかわっていない」、「中には知ってる人もいたんじゃないんですか」という質問に対して、「全然しらない。エミーという女の子はドイツ人らしいね。あとはデンマークのシンガーらしいね。」、「彼らとスタジオで顔を合わせることもなかったんですか。」という質問に対しては、「まったくあっていないよ。全部コンピューターで作ったらしいよ」みたいな。このスタンスですね。要するにピアノのトラックだけを彼は提供して後は適当にやっておいてという感じで作ったのがこの作品のようですが、その割り切り方が勝因だと思います。話題のシングルナンバーを聞いていただきたいと思います。Jukebox。



 これは面白いやとおもってCDを聞いたら面白いのはこの2曲だけだったなぁ、あとはなんかあれだなぁと思って、その後にライナーノーツを読んで要するに作家性がないわけですよ。本人はトラックを提供しているだけで、基本的にこのCDの作家はディレクターだと思うんですけれども、この企画を立てたレコード会社のディレクターの世界観とセンスやアイディアはすばらしかったと思うんですが、それが作家性があるわけでもないし、音楽的になにがしかの明確なメッセージがあるわけでもないし、私的にいうならば代理店仕事という感じのCDになっていて、アイディアはいいんだけどなぁみたいな感じがします。

トゥー・ギャランツ(Two Gallants)に学ぶ今のラジカルなロックバンドの特徴とは?

world rock now 20060303

 もともと2004年にアメリカではデビューアルバムが発売されているんですが、日本でのデビューはこの新作になるわけでございまして、そのアルバムを紹介したいと思います。ギターボーカル1人、ドラム1人という非常にユニークな編成で2人でやっております。Steady Rollin'。



 いいバンドが出てきてという感じで私もかなりうれしいんですけれども、サンフランシスコ出身の20代中盤の二人組みなんですけれども、トゥー・ギャランツというグループ名は当時二人が読んでいたジェイムズ・ジョイス(James Joyce)の『ダブリン市民』からとったということで、そういう音楽好きの文学青年の二人が、元々はベースも探していたらしいんですけれども、いい人がいなかったから二人でやってしまおうという非常に変則的にやったようでございます。ここからすぐに思い浮かぶ名前は僕はボブ・ディラン(Bob Dylan)ですけれども、本人達はあまりフォークやブルースにルーツがあるという感じではなくて、当然のことグランジの影響を受けた世代なんでグランジの影響はあるかもしれないけど後はなぁみたいな感じで、ドラマーはジョン・コルトレーン(John Coltrane)のドラマーのエルビン・ジョーンズ(Elvin Jones)やマックス・ローチ(Max Roach)の影響を受けているんだよと言うことで、特にフォーク的なあるいはブルース的なミュージックの影響があるという感じではなくて、いろいろな音楽がアメリカの音楽シーンの中で耳に入ってそれをアウトプットするとうそういう感じだと思います。まだ原石な感じですけれども期待できそうだなぁという感じがしますね。Las Cruces Jail。



 ホワイト・ストライプス(The White Stripes)にも共通することなんですけれども、今の新しいラジカルなロックというのは何かが欠けている、バンドというのはドラムがいてベースがいてギターがいてボーカルがいて、それにキーボードがプラスアルファになったりという構造で、例えばドラム抜きとか、ベース抜きとか、ギター抜きとかそういうのはかなりフリーキーなスタイルだと認識されているんですけれども、わりとそこをシンプルにやってしまう。そういう所で逆にラジカルになるという面白い傾向があるんですけれども、それと同時にすごくシンプルで、昔はすごくインプロヴィゼーション(即興)が長かったり、あるいはすごいアバンギャルドなメロディーを壊したり、リズムをめちゃくちゃにしたりとか、あるいはすごい電気楽器のノイズをやったりとかそういうことにおいて表現の前衛性を競った時代があったし、今もそういう傾向があるバンドもありますが、今はもっともっとシンプルにしていくことによって音楽がラジカルになるという傾向がロック全般の中にあって、そして、それを論理的ではなくて自分達自身の皮膚感覚で感じ取ったバンドが出てきてこういう音楽をやるのは面白いなという感じがします。Long Summer Day。




モグワイ(Mogwai)は静寂と轟音を反復するワンパターンである説

world rock now 20060310

 グラスゴーの轟音バンド、モグワイの新しい作品が発表されました。3年ぶりの新作になりますけれども彼らの場合は一つの文体みたいなものが完成されておりまして、その文体そのものがモグワイでありこのモグワイのスタイルがポストロックの象徴として語られていますけれども、3年ぶりの新作はどのような佇まいなのでありましょうか。いろいろなところで最高作と周りの人も本人達も言っているようでございますけれども、まずは一曲聞いてください。Travel Is Dangerous。



 モグワイの独特のスタイルであるドンドンと小さく始まってボガーンとなるこの静寂と轟音の反復で、あとはこのバリエーションでボワーといくのと急にドガッといくのといろいろあるんですけれども結局はドカッと行くんだろうみたいな感じで、これが轟音空間に身をおいていると確かに気持ちいいんですがだんだんこの反復に飽きてくるみたいな所があって、またこれかよと思っているところが私にはありますが、今回は今聞いていただいてもわかりますように、基本的なモグワイスタイルはありますが静寂と轟音の反復という彼ら自身の一種の発明ですし、シガー・ロス(Sigur Ros)なんかと同じくポストロックスタイルの定型にだんだんなってきちゃいましたけれども、それだけではなくて自分達の新しいスタイルを模索しようとしておりまして、今の曲も非常にコンパクトな曲に彼ら自身の起承転結をきっちり入れていこうという試みがされております。続いて聞く曲もかなりユニークな試みでありまして、日本人のバンドの深川哲也さんという人のポエトリーリーディングが基本的な言葉の基調になっておりまして、それにモグワイが音をつけているという曲で、全編日本語であります。I Chose Horses。



 日本人にとってはすんなり入っていけるんですが、向こうの人だとこの日本語の響きはどういう感じで入っていくんでしょうか。単純なオリエンタリズムなのかなぁ。エキゾティックな。その辺はよく分からないんですけれども、すごくユニークな試みであると思います。今回のモグワイは今までのモグワイスタイルから原典回帰でスタート時に持っていた一種のダイナミズムに立ち返ったというところがあります。これによってコンパクトな曲が増えてロックバンドとしてのダイナミズムも手に入れた、そういう新しい一歩を確実に歩み始めた、そういう手ごたえが僕には感じられます。でもやっぱりモグワイはこうでなければという王道なナンバーも入っております。We're No Here。




ピンク・フロイド(Pink Floyd)はロジャー・ウォーターズ(Roger Waters)である説

world rock now 20060407

 ピンク・フロイドのギタリストのデヴィッド・ギルモア(David Gilmour)の22年ぶりの作品で、何もしなくても22年優雅に暮らせるピンク・フロイドの定期預金というのはすごいなぁと思いますけれども、そういう久方ぶりの作品、しかしライブエイドでピンク・フロイドが30年ぶりくらいに再結成されて大変な反響を巻き起こしたという背景があったかどうか理由はさだかではないですけれども、イギリスでは大ヒットして大変話題になっているデヴィッド・ギルモアの22年ぶりのソロアルバムのアルバムタイトルナンバーを聞いてください。On An Island。



 演歌ギターを弾かせたらカルロス・サンタナかデヴィッド・ギルモアかというくらいなもので、すごいですよね。芸風が変わらないし思いっきり演歌してますよね。この演歌的な感性というのは全世界的に通用するんだということをサンタナもデヴィッド・ギルモアも証明していますが、私の番組を聴いているかたはご存知であるかもしれませんけれども、私はピンク・フロイド、それはロジャー・ウォーターズであるという学説をずっと主張し続けている人でありまして、別に他のメンバーは要らないというわけではありませんけれども、やっぱり一番重要な働きをしていたのはロジャー・ウォーターズであると思いますし、ピンク・フロイドのコンセプト、そして作詞作曲歌歌っていてアレンジャーなんかもやっているので当然一番重要なのはロジャー・ウォーターズなんですけれども、デヴィッド・ギルモアというのは一人の優秀なギタリストとして、アレンジやギターのフレーズにおいてピンク・フロイドに大きく貢献していたという人なんで、やはりピンク・フロイドのギターの部分だけが独立したというそういうそういう印象がこの作品にはあると僕は思います。でもあのギターの音というのは耳に残っているもので、音楽評論家っぽくちょっと気の利いたことをいうのならば、要するにピンク・フロイドというのは歌メロとそれに対抗する形でのデヴィッド・ギルモアのギターの一種のギターのメロがぶつかり合って成立するカタルシスがすごく重要な商品性を形作っているんですが、聞いていただければわかるんですけれども、ギターメロと歌メロが一緒なんですよね。デヴィッド・ギルモアがソロでやってしまうと。ロジャー・ウォーターズの場合はロジャー・ウォーターズ自身が非常にポップな歌メロを作ってそれに対してデヴィッド・ギルモアの別のフレーズのギターのメロが絡むというそういう緊張感があの商品性を生んでいるんですが、彼の場合は結局ソロになっちゃうとギターメロも歌メロも一緒になっちゃって割と単調な印象を与えてしまうということになってしまうと思います。でもやっぱりピンク・フロイドのギタリストのデヴィッド・ギルモアのサウンドというのは独特なものがあります。もう一曲じっくりと聴いて頂きたいと思います。Take A Breath。




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