アメリカン・ミュージックの系譜第十三回 講師は大和田俊之氏です。
1、意義
・1990年代以降の、インターネットが音楽業界全体に影響を及ぼしていて、あらゆる領域でドラスティックな変化を起こしました。そのことによって、アーティストサイド、作曲家サイド、リスナーのそれぞれの陣営が影響を被り、変化しながら音楽業界は発展していっています。
2、ストリーミングサービスと音楽業界
(1)、意義
・1990年代半ばからインターネットが始まり、現在はストリーミングサービスが浸透をしてきています。
(2)、ダウンロードの時代
・インターネットで出て来た時に、最初はダウンロードになるわけです。ダウンロードというのはiTunesとかのサイトがあって、そこで一曲単位あるいはアルバム単位で買うわけです。それはCDやレコードはないんですけれども、自分のPCの中に楽曲が入ってきて対価を払いわけです。
(3)、ストリーミングの時代
①、意義
・近年はさらにストリーミングサービスというものがでてきました。SpotifyとかApple Musicとかのストリーミングサービスは、音楽のデータベースがあって、月々1000円とかを払うとこの音楽のデーターベースを聞くことができるわけです。つまり、ストリーミングサービスは音楽を売っているのではなくて、音楽にアクセスする権利を売っているわけです。これはものすごく大きな変化で、我々は従来はアルバムとか作品単位で対価を払っていたわけですけれども、今はそうではなくて、音楽があってその音楽のドアを開けるためにお金を払っているわけです。このシステムが少なくとも欧米では主流になっているわけです。
②、問題点
・テイラー・スウィフトがSpotifyから引きあげるという事件が起きました。この報道がされた時、多くのミュージシャンはもうストリーミングは成り立たない、数万回再生されたのに入ってくるお金は数十ドルであるとコメントを出しました。これだと、ミュージシャンは全く生活ができないわけです。
③、ストリーミング時代の成立
・ところが、ストリーミングサービスは有料会員が増えれば増えるほど取り分がどんどん増えていくわけです。だから、今のところはパイはどんどん大きくなっていくわけです。そして、ここ2年間ですけれども、アメリカの音楽業界はかなり利益を出し始めてきました。2年連続の成長というニュースがかけめぐりましたけれども、これは1999年以来なんですね。明らかにストリーミングサービスが、アメリカの音楽業界に確実な利益を出し始めているわけです。1990年代半ばにインターネットが始まるわけですから、見方によっては20年かけてアメリカ音楽業界は再編を成し遂げたといってもいいのかもしれません。かつて、新しいメディアとしてラジオが台頭してきた時、やはり10年20年かけて、アーティスト、作曲家、実演家、リスナーが三つ巴になって、プレイヤーがどんどん失業をしたり、シンガー、コンポーザー、リスナーがそれぞれ変化を強いられるわけです。そして、最終的に再編した後に利益を出していくわけです。もしかすると1995年から20年くらいたって、ストリーミングサービスが定着することによって、インターネット以降の音楽業界が再編したという風になるのかもしれません。
3、ビルボードとインターネット
(1)、時代に合わせて変化するビルボードチャート
①、1991年以前のビルボードチャート
・ビルボードのチャートは時代に合わせて変化させていますが、1991年に非常に大きな変化があったと言われています。これまでどういう風にランキングを決めていたのかというと、レコード店の売り上げとラジオ局のエアプレイ数をもとに作成していました。しかし、レコード店の売り上げもラジオ局のエアプレイ数もみな嘘をついていたということがあって、正確なランキングには程遠かったわけです。
②、1991年以降のビルボードチャート
・1991年にPOSシステムが導入されて、デジタルに本部に報告されるようになりました。これによってチャートは大幅に変化します。簡単に言うと、ヒップホップとカントリーのジャンルとしてのランキングが大幅に上昇して、ロックミュージックが下がりました。これは、白人の男性中心の音楽業界の関心が、都心のアフリカ系アメリカ人、あるいは南部白人の趣味嗜好をきちんと把握できていなかったわけです。つまり、なんとなくみんなロックが好きなんだろうということでランキングを作っていたけれども、きっちりと数字を出すようにしたら、ヒップホップとカントリーがものすごく人気であったということが分かったということが、よくビルボードの歴史の中で語られる逸話です。
(2)、インターネット時代のビルボード
①、意義
・1990年代半ばからインターネットが始まり、現在はストリーミングサービスが浸透をしてきています。ビルボードもこのストリーミングサービスができてきて、対応を迫られました。というか、今対応をしている最中なんです。
②、Youtubeの再生回数
・ビルボードのチャートは、最も売れている曲のチャートではなくて、最もヒットした曲のチャートなんです。ビルボードは売れていることよりもヒットしていることにずっとこだわってきていて、だからこそ2013年バウアー(Baauer)という人のHarlem Shakeといって、主にYoutube上でちょっとした短いリズムに合わせてみんなが踊り、その踊った映像をYoutube上にアップロードするということが大流行したわけですね。曲というよりは、感染性のある流行ですね。この時にビルボードは、Youtubeの再生回数をカウントするかどうかを話し合いました。結果的にカウントするということにしたんですね。しかも、バウアーのオリジナルのビデオだけではなくてその曲が使われているすべてのミーム(meme)をすべてカウントするということで、2013年の年間チャートにはこの曲が入ってきました。ビルボードの言い分としては、元の曲がCDとして売れたりダウンロードされたりすることはなかったかもしれないけれども、しかし2013年にこの曲はありとあらゆる所で流れ続けていたわけですね。つまり、ヒットしたという曲をビルボードは常に注目しているわけです。
③、ストリーミングサービス
・ストリーミングサービスが出て来た時も、何回再生されたらCDが1枚売れた事と同じことにするのかということを計算しているわけです。常に音楽業界の変化に対応してきているチャートだなと思います。
4、音源からライブで稼ぐ時代へ
(1)、チャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)の試み
①、意義
・ヒップホップの中にチャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)というアーティストがいます。CDというフィジカルを売らないことはすでにいろいろな人がやっているのですが、彼は音楽を売らないんですね。タダでネット上で配っているというか、ストリーミングで欲しい人が聞いてくれということで、アルバムを作成しました。このアルバムももう完全に普通に売っていてもいいくらいのクオリティーで、ビヨンセ(Beyonce)とかメジャー級の人がどんどん出ていて、アルバムをタダでネット上に置いているわけです。
②、チャンス・ザ・ラッパーの考え
・チャンス・ザ・ラッパーがどういう風に言っているのかというと、もう音楽はライブで収入を得る時代であると。アルバムはネットに置いて、これを聞いた人が自分のライブに来てもらって、ライブで収入を得て、ライブ会場でTシャツなどの関連グッツを売ってこれからのミュージシャンは生活をするんだということを宣言しています。
(2)、グラミー賞
・この作品は大ヒットしたのですが、アルバムとして売られているわけではないので、グラミー賞でノミネートするかで大きな話題になりましたが、ノミネートされました。結局、チャンス・ザ・ラッパーは結局グラミー賞7部門にノミネートされて最優秀新人賞、最優秀ラップ・アルバム賞、優秀ラップ・パフォーマンス賞を受賞しました。最後にこのアルバムから一曲聞いていただきたいと思います。No Problem。
チャンス・ザ・ラッパーのようなアーティストも出てきていて、それがグラミー賞という伝統的な賞の中でも評価されてゆくということですね。