音楽のおべんきょうφ(.. )メモメモ

NHK-FMWorld Rock Nowでの渋谷陽一氏の解説で面白かったものをメモしてゆきます。

エミネム(Eminem)、「敗北より死」の覚悟で全方位をディスりまくる

20181118 

 エミネムの「Kamikaze」を紹介します。イギリスでもアメリカでもアルバムチャートを紹介するたびに、いつもこのアルバムの名前を唱えておりましたけれども、とにかく全世界的に話題とセールスが大変なもので、世界中を席捲した作品になります。初登場1位になってからも1位を続け、それ以後もどんどんセールスを伸ばして、まさにエミネムの起死回生というか、エミネムがまた新しいゴールデンエイジをこれから始める手ごたえを感じさせる作品であります。そして同時に、この内容の過激さ、まさに前作「Revival」から8ヶ月という短いインターバルで発表されたんですけれども、この短い期間の中でどれだけ彼は怒りをため、そしてこのアルバムを何が何でも作って、自分自身の後悔のない作品にしようとして、全身全霊で取り組んだのかということがものすごく伝わってくる作品になっています。物議をかもすという意味においても、大きな話題になっている作品です。「Kamikaze」はまさに日本の神風をモチーフにして作られた作品なんですけれども、アルバムの裏側に日本語が書かれていて、「敗北より死」って書いてあるんですよね。まさに彼にとってこのアルバムは「敗北より死」、この戦いに出て負けるくらいなら自分は終わってもいいという覚悟で、作った作品といっていいかもしれません。ありとあらゆるラッパーへの罵倒、世界への怒り、そして既存のものの実際的な名前をあげつつとにかく怒り倒しているというそういう作品で、ある意味賛否両論を巻き起こしつつ、そして巨大なセールスを記録しつつ、今年を代表する作品となったこの「Kamikaze」がようやく日本でもリリースされることになったので、じっくりと照会していきたいと思います。Good Guy。



 彼の怒りというのは、すべてのヒップホップシーン、音楽シーン、社会に向けられておりまして、公に公言しておりますけれども、彼はケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)、J・コール(J.Cole)、ビッグ・ショーン (Big Sean)、ジョイナー・ルーカス(Joyner Lucas)以外のヒップホップアーティストは全員認めない。つまり、それ以外のアーティストをディスり倒すんですね。それ以外のアーティストはそれは怒るし、いろいろなトラブルも生まれるし、戦いもうまれるし、でも彼にとってはそれは言わなければいけないこと、今のぬるいヒップホップシーンに対して怒りをぶつけます。そして、彼が「Revival」というアルバムを作って、この作品はエド・シーラン(Ed Sheeran)やビヨンセ(Beyonce)とかビッグネームがフューチャリングされて、非常にポップに作られた作品だったのですが、これはある意味彼にとって起死回生の作品になるはずだったのですが、セールス的にはイマイチで、当然これで起死回生しようと思ったくらいですから、その前の数作は非常に評価的にもセールス的にも苦しいところにいたわけです。いろいろな意味で彼は追い込まれて、その中から最終的に自分はもういっぺん本来的な自分自身のやるべきことは何であるのか、そして言うべきことは何であるのかということをしっかりと見据えて作った作品で、だからこそこれだけ激しい怒りとノイズを生んで、でもそれがエネルギーとなってこれだけのセールスを記録しました。例えば、Fallという曲があるんですけれども、このビデオクリップが大変話題になっているのですが、ビデオクリップの一番最後で彼は、前作である自分自身の「Revival」を踏み潰すんですよね。つまり、自分自身に対する否定、未だかつてアーティストが自分自身のCDを踏み潰すなんて見たことないですからね。彼の怒りや批判というのは、社会や他者に向かうと同時に、自分自身にも向かうとう、ものすごく厳しい姿勢で作られた作品です。



 続いては、Stepping Stoneという踏み台という曲を聞くんですけれども、これはD12というエミネム自身が初期仲間であったみんな、でも結局はバラバラになりみんな苦しい戦いをしている、その仲間に向かって自分自身の正直な心情を吐露する作品です。




 本当に彼の怒りはとどまる所なく、斬りまくるんですけれども、私の大好きなタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)も刃を向けられて、モチーフとしては彼のゲイカミングアウト云々みたいなところも絡めていろいろな事を言うんですけれども、そこまで言わなくたってさぁと、いまさらそこまで言わなくたっても本人も言ってることだしみたいなところは、タイラー・ザ・クリエイターの一ファンとして聞くとなるんですけれども、ただエミネム側からすると、これを言わないと、これを抑圧していたらダメなんだと、そういう所があるのかなと思います。そのエミネムのモチーフとして、これほど合うものはないのではないかというVenomという映画がありますけれども、それのテーマソングを聞いていただこうと思います。Venom。


ボブ・ディラン(Bob Dylan)がプロテストソング(Protest Song)の旗手から大衆化したアルバム、「Blood on the Tracks」

20181104

児島由紀子「ブートレッグ・シリーズ第14集が世界同時リリースされるボブ・ディランについてです。しかも今度の作品は「Blood on the Tracks」のレアトラック集なんですけれども。」

渋谷陽一「こちらでは「血の轍」と言われていますね。」

児島「そうそう。その原題とあわせて、今回のタイトルが「More Blood, More Tracks」という、いかにもボブ・ディランらしい、ちょっとひねったタイトルになっています。数か月前にロンドンで、世界プレミア試聴会がありまして、ディラン本人はもちろん降臨しなかったんですけれども、プロデューサーが渡英しましていろいろ説明してくれました。このアルバムはもともとニューヨークでレコーディングしたものなんですけれども、数か月後にディラン自身はそれが気に入らなくて、またミネアポリスで録音しなおしたという非常にややこしいプロセスを経て作ったアルバムです。この「More Blood, More Tracks」に収録されているのは、主にニューヨーク録音なんですよ。それで、オリジナル盤には収録されていなかったレアトラック集とかも入っているんですね。しかもこの時期のレコーディングには、ミック・ジャガー(Mick Jagger)が非常によくスタジオを訪れて、ボブ・ディランと一緒に話したりとか、ジャムったりしていたらしいんですね。それで、ボブ・ディランとミック・ジャガーの会話の録音なんかも聞かせてくれたんですけれども、オフィシャル盤には収録されるかどうかはわからないと言っていました。」

渋谷「ずるい。児島さんは聞いたんだ。」

児島「ミック・ジャガーの権利とかいろいろあるんでしょ。このアルバムは、もともとはプロテストソングの旗手だったディランが、非常にプライベートな不倫とか離婚問題を扱ったアルバムで、リリースされた当時は、非常に賛否両論があったんですね。ブルーにこんがらがって(Tangled Up in Blue)っていう曲があるじゃないですか。この曲はまさにディランの当時の私生活の状況を歌っている歌なんです。でもこのアルバムは二度目の全米1位をとったんですよ。だから、大衆アピールがあったんですよね。これまでは高尚なアーティストだったディランが急に我々もディベートできるような話題を歌い始めたということで、このアルバムを機に大衆ファンがたくさんついたんですよ。」

渋谷「この作品で、生々しいディランを感じることができたんですよね。それではボブ・ディラン聞いてください。 If You See Her, Say Hello (Take 1 Edit)。」



渋谷「今の若いミュージシャンは、いろいろな形で自分で音楽ジャンルを選びながら、自分の作品を模索しています。今はこれだけ多様になって、例えば自分が若いミュージシャンであって、何か作品を作ろうと思った時に、自分の音楽スタイルを一つの音楽ジャンルに自己規定することは、なかなか難しいのではないのかなと思います。それこそヒップホップと、それこそダンスミュージックと、そしてロックと、いろいろなジャンルの中で、このジャンルでやるというこだわりというものが、むしろマイナスになってきているような気がします。例えば、ディランがフォークからロックへということで大変な物議をかもしてということがあったんですけれども、今はもうそういう時代ではないなぁという感じがします。」

ミューズ(Muse)、ついにアメリカも制覇する

20181021

児島由紀子「3年ぶりに新作をリリースするミューズについてです。現在のクイーン(Queen)と呼ばれていますが、だから日本でも人気があるんでしょう。昔から日本とヨーロッパでは人気があったけれどもアメリカではイマイチだったのですが、前作でついに全米1位をとりました。だから向かうところ敵なしでしょ。」

渋谷陽一「ドラマチックで分かりやすい音なので、基本的にはすごく普遍性があるサウンドですよね。」

児島「そうですね。今回の新作は、実験性と大衆性をうまくバランスをとっています。」

渋谷「そのへんが成功の原因かもしれないですね。」

児島「そう思います。プリンスとデスメタルが衝突したような曲とか、ヒップホップ系の曲もあるんですね。」

渋谷「すごいですね。デスメタルからヒップホップまで何でもありですね。」

児島「その反面、典型的な、昔ながらのファンが喜びそうなニュークラシックも満載です。」

渋谷「そうですね。いよいよ全米も制覇したということで。」

児島「また今作も世界何十か国で1位になるんでしょ。」

渋谷「ライブもやたらドラマティックですからね。」

児島「そうなんですよ。それで、ジミー・ペイジ(Jimmy Page)もファンなんですよね。以前、数千人クラスのクラブでやってたときに、ジミー・ペイジが見に来ていたんですよ。」

渋谷「面白い。見た人がいるんだ。」

児島「そう。翌日、ジミー・ペイジも来ていたという報道がありました。」

渋谷「イギリスでの人気というのはどういう感じなのですか。」

児島「すごいですよ。アルバム出せば必ず1位になるし。非常にヨーロッパ的なロックサウンドですからね。」

渋谷「クラシカルな、ゴシックな感じがありますからね。」

児島「その反面メタル的な要素もありますから、北欧でも非常に受けています。」

渋谷「なるほど。じゃあ、このアルバムを引き下げての大々的なツアーが行われて。」

児島「ほんと、バカ売れすると思います。この人達は頭いいなと思いますよ。自分たちがやりたいことと、ファンが望んでいることを非常によくバランスをとっているなと思います。」

渋谷「そう思います。これはポップミュージシャンとして正しいですね。Pressure。」


マッドハニー (Mudhoney)に学ぶ、デジタル社会のゴミとは

20181021

 マッドハニー (Mudhoney)の最新アルバム「Digital Garbage」からOh Yeah。



 1分半以下の非常に短い曲で、いかにもマッドハニーという、そういう感じの楽曲でした。マッドハニーは、誰もが言う言い方なんですけれども、グランジシーンの先駆者というか、ゴッドファーザーというか、ニルヴァーナ (Nirvana) のカート・コバーン(Kurt Cobain)に影響を与えたグランジシーンの兄貴というか、シアトルで30年のキャリアを誇るバンドです。メンバー的には、「俺たちが出てきた頃にはグランジなんて下火で、もしニルヴァーナがないかったらグランジシーンなんてなかったかもしれないよねぇ」と等身大の発言をしっかりとする、クールなバンドでありますけれども、彼ら自身が非常にストレートなロックンロールを30年間叩きつけてきたものというのは、まったく劣化していないし、彼ら自身の存在、エッジの立った在り様というものも、ずっと一貫してロックファンの中で支持されてきました。ただ、前作から5年のインターバルがあり、今回は久しぶりの作品となりました。タイトルが「Digital Garbage」。デジタルのゴミというタイトルがついています。アメリカの今日的な状況に対する危機感、それがロックバンドにどれだけ多くの影響を与え、その危機感が彼ら自身をどう突き動かしているのかということをすごく感じさせるアメリカのバンドが多いですけれども、マッドハニーも現在のアメリカに対するすごい危機感があるし、大人である彼らが今のデジタル社会に対する今の在り様、こんなことでいいんだろうかという危機感をすごく持っていて、それがこの作品に反映されています。続いて聞くのがKill Yourself Live。自殺を生中継するという今日的で生々しい、でもすごく暗く絶望的なテーマを取り上げたナンバーです。

  俺が自殺の生中継をしたときはすごい数の「いいね」をもらった
  ほら君も試してみなよ自殺の生中継
  超有名になれるぜ
  超人気者になれる
  皆が小さな画面で視聴するんだ
  最高だろうね
  きっと信じられないくらい
  自殺を生中継
  自殺を生中継
  しなよ「いいね」をもらうために
  君は実に特別な子どもだった
  君は追悼されるだろう
  社会がいかに君を見捨てたかが問われ
  君の名を冠した法律が可決される
  そして君は生き続けるんだ
  ネット空間のデジタルなゴミにまじって

 「Digital Garbage」というアルバムタイトルになった基本となる楽曲なんですけれども、こういうすごく荒涼とした社会。こんなことで本当にいいのだろうかと。ここで今の若者たちが消耗し、すり減っていくことの危機感。そんなものがこのアルバムは貫かれております。Kill Yourself Live。



 続いては、21st Century Phariseesというナンバーを聞きます。Phariseesとは、イエス・キリストから偽善者とみなされた律法学者パリサイ人を指す言葉なんですけれども、世の中には倫理だとか正義だとかを語りながら、現実的にはすごく偽善的なことをやっている人達がたくさんいる。そういう人間に対する怒りと糾弾みたいなものが歌われている、マッドハニーのグランジ魂が爆発している曲です。21st Century Pharisees。


ポール・サイモン(PaulSimon)に学ぶ、ミュージシャンの終わらせ方

20181014

中村明美「ポール・サイモンの最後のライブを見てきました。今年に入ってからポール・サイモンはこれが最後のツアーですと宣言をして、ファンの方はガッカリしたと思いますが、音楽を作るのも好きだし、僕の声もまだまだ出ているし、バンドのサウンドもタイトだし、音楽のことばかり考えているんだけれども、悲しいことに30年間一緒にやってきたギタリストが死んだことをきっかけに考え始め、ツアーを出ることの喜びよりも、家族と一緒にいられないことの悲しみの方が大きくなってきたかなということで、50年間ライブに来てくれたファンの皆さんありがとうということで、ツアー自体はもうやめると宣言しました。曲は作り続けていくし、単発で例えばチャリティー的にアコギのライブをやったりはするけれども、もうツアーはやりませんと。そのツアーの最後のライブを見てきたんですけれども、最後のライブはどこでやったのかというと、クイーンズの公園でやりました。普段ライブで使うような場所では全然ないんですね。平らな場所なので、そこにサウンドシステムもすばらしいものを持ってきて、ポール・サイモンは完璧主義者なので、すばらしい音で、12人のバンドを連れて、最高の演奏をしました。クイーンズを選んだのは僕的には運命だったなぁと言っていたんですけれども、彼が育った家から自転車で20分くらいの場所で、よく遊びに来ていたという場所で、完璧に計画をしてそこで最後のライブをやったんだろうと思うんですけれども、ライブはいきなりAmericaから始まって、アコギで始まって、そのあとにいきなりストリングスが入ってドラマチックになって、一曲だけ聞いただけでも泣きそうになって、このライブに来てよかったなぁと思いました。僕の曲は実はビートをしっかりと作っていて、全部ダンスするように作っているから、みんな踊ってくれていいだよと言っていて、明るく楽しくというか、重々しくならないように、キャリアを総括する幅広いサウンドの素晴らしいライブをやっていたんですけれども、ニューヨークを代表するアーティストなので、曲の中にニューヨークという言葉が出てくるたびに観客が大盛り上がりしたり、奥さんのエディー・ブリケル(Edie Brickell)が出てきて口笛で参加したり、もちろん名曲のBridge over Troubled Waterをやったりもしたんですが、新しい曲もどんどんやって、それもアレンジが新しいみたいな感じで、アーティストとしてもまだまだ好奇心があるんだという所を見せつつも、しんみりしすぎない感じで、僕はここで野球なんかもよくやっていたんだよねぇ見たいなことを言って、観客にボールを投げてキャッチボールをしてみるみたいな面もあったりしたんですけれども、さすがにアンコールの二回目の一曲目まできたところでHomeward Boundをやったんですけれども、本人がちょっと泣きそうになっているという場面もありつつ、最後終わる前に、今はやっぱり奇妙な時代だよね、でもあきらめないでねって言われた時に、ジーンと来てしまいました。最後の最後にSounds of Silenceをやって、君たち今日僕がここでライブをやったことがどれだけ意味のあることだったかは、君たちの想像を超えるくらいだから、ありがとうと言って終わりました。76歳と言えば、ポール・マッカートニー(Paul McCartney)もなんですけれども、彼の方はやめるという感じもなく、新しいアルバムを出して新しいツアーをやっているという中で、70代を超えたアーティストがどうやって終わっていくのか、ファンも音楽の終わりというものに直面していて、いろいろ考えさせられる素晴らしいライブでした。」

渋谷陽一「ポール・サイモンのツアーが終わってしまうのは残念ですけれども、ライブそのものをやめてしまうというわけではないので、これからもいろいろな機会でライブに接することができるんじゃないかなと思います。ここではポール・サイモンが自分のソロ作のセルフカバーアルバムを出しました。その中から一曲聞いていただきたいと思います。One Man's Ceiling Is Another Man's Floor。」



渋谷「ポール・サイモンはツアーが終わってしまう一方、同い年のポール・マッカートニーはこれから来日して精力的にやっている、そしてウィリー・ネルソン(Willie Nelson)は85歳にして力のこもった新作を発表していると、アーティストはそれぞれ自分の晩年をどう過ごすのかということと向き合っていたりするんですけれども、Elton John(エルトン・ジョン)はこれからラストツアーをやって、3年間で300公演と、そんなに元気ならもっとやれよという感じがするんですけれども、印象的だったのは、昔ビリー・ジョエルとエルトン・ジョンとポール・サイモンの3人でツアーをやっていて、そのステージ上でエルトン・ジョンとビリー・ジョエルは幼児性丸出しの本当にくだらないことで盛り上がっているんですけれども、ポール・サイモンがこいつらとは付き合いきれないという顔をして、ちょっと距離を置いているところが彼らしかったなという感じがしました。」
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